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Milano Report

4月のミラノといえばミラノデザインウィーク。街中がデザインの祭典に染まる1週間の核となるのは、ミラノサローネ国際家具見本市、通称ミラノサローネ(注:日本のみの通称。正式名はSalone del Mobile.Milano/ サローネ・デル・モービレ・ミラノ)。市内では、同時期に団体や企業、個人が個々に自由な展示・インスタレーションを開催し、それらはフオーリサローネ(見本市外)と呼ばれています。
近年ではファッションメゾンもこぞってインテリア界に参入し、この週に各々の市内ショールームや、場所を各自借りて展示やインスタレーションを行い、ファッションマニアの注目を浴びていますが、イタリア家具工業連盟が運営するミラノサローネが開催されない限り、統括する運営団体が存在しないフオーリサローネだけでは、1週間に世界中から40万人近い人をミラノに集客することは不可能なのです。

今月はその世界最大級の家具とインテリアの見本市、ミラノサローネを中心に内部へ潜入してご紹介します。

ミラノサローネとは?オープニングへ潜入!

4月16日(火) から21日(日) の6日間、ミラノの隣町、ロー市のフィエラミラノという巨大展示場で開催されたミラノサローネ国際家具見本市(以下、ミラノサローネ)は、 370,824人の来場者数(うち海外から53.9%)を記録した。
業界関係者は31万人を超え、昨年比28.6%増、うち65%が国外から来場した。出展社は35カ国から1,350社、トップブランドの中には1社で4500平米という巨大なブースを構える企業もあり、有名企業だと数億円単位のビジネスが毎日展開される巨大見本市だ。
また、約600人の若手デザイナーによるプロトタイプ展示の同時開催も人気の一つ。今年は1週間のミラノ市の経済効果がなんと440億円を超えた(フオーリサローネの効果も含む)。

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Courtesy Salone del Mobile.Milano

一言ではとても説明できない「イベント」とも呼べる巨大見本市。
まずはそのオープニングを覗いてみよう。前夜の4月15日、ミラノ・スカラ座を貸し切って要人、VIP客、出展企業、ジャーナリスト、サローネ関係者など厳選された招待客のみの特別公演で幕を開ける。
2019年に始まった企画だ。ミラノ・スカラ座の音楽監督、リカルド・シャイー指揮のもと、「史上最高のテノール歌手」とも称されるフアン・ディエゴ・フローレスの歌声による、ヴェルディ、ベッリーニ、プッチーニといったイタリアオペラを代表する作曲家のアリアを、五感を全開させ全身で聴く。
翌日から始まる怒涛の一週間を前に、既に準備で疲労がマックス!という前夜に、世界三大オペラハウスの1つであるミラノ・スカラ座で最高の生の音楽に触れるという贅沢な前夜祭。
趣旨が理解できず「デザインイベントを1つでも多く見る」を優先し欠席する残念な招待客が毎年若干いるが、この招待は、一瞬でも現実逃避し質の高い芸術に身を浸すことの贅沢さ、大切さ、強いては現代のデザインがいかに歴史的な芸術と結びついているか、そして「舞台」が正にその集大成であるか、を再認識させてくれる貴重な時間、というサローネからの粋な贈り物なのだ。

ゲストにはミスター・アルマーニも登場!それもそのはず、パンデミック後にミラノサローネの初女性代表となった若干40歳のマリア・ポッロ氏のソワレはジョルジョ・アルマーニだった!

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右:ミラノ・スカラ座の舞台に立つ指揮者リカルド・シャイーとテノール歌手フローレス
左上:ジョルジョ・アルマーニと挨拶するマリアポッロ代表。
左下:マリア・ポッロ代表とミラノ市ベッペ・サーラ市長。

前夜祭はそこで終わらない。
更に厳選された招待客のみが今年は世界でも10本の指に入る最も古い会員制高級クラブ、ガーデンソサエティーでの晩餐会、「ガラディナー」が続く。
サローネならではのサプライズな会場で、招待客をもてなすガラディナーはパンデミック前の2019年、スカラ座の舞台上でのディナー以来だ。
今年の会場となったのは、スピノーラ宮殿 (Palazzo Spinola) 。ジェノヴァからやってきた銀行家レオナルド・スピノーラが1597年に創設した宮殿で、現在はガーデン・ソサエティ・クラブの本拠地。
格調高い内装と優雅な庭園で有名だ。ケータリングのシェフは、2023年ミシュラン2つ星に輝いたアンドレア・アプレア(Andrea Aprea)。 “Sweet and Salty” という名の通り表面がパリッとほんのり甘くキャラメリゼされた絶品なカプレーゼに合わせ、Ca’del Boscoのヴィンテージ・フランチャコルタがグラスに注がれた。
リゾットのお米はダーマ (Dama) のカルナローリ (ダーマ はヴェルチェッリ産で、精製を行わず、原料にこだわりながら繊細に籾殻を取り除くことで米の栄養価や資質と風味を保つ)がセレクトされたビーフ・ジェノヴェーゼにエンダイヴ、ブラックオリーブ、プーリアの高級ポドリカ牛のチーズ「カチョカヴァッロ・ポドリコ」で和えている、という初体験の味なのにどこか懐かしいとても美味な名作の1品!ワインはスポンサーのCa’ del BoscoよりSelva della Tesa 2019。デザートはアマルフィ海岸のレモンケーキで爽やかに締めくくり。時計はほぼシンデレラタイム、スターシェフの料理で胃袋も満たされ、さあ、いよいよキックオフ!

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Salone del Mobile.Milano
www.salonemilano.it/en
www.milanosalone.com
会場:Fiera Milano, Rho
次回開催予定:2025年4月8日〜13日

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開催初日の朝、首相の代理で来場した大臣たち、ロンバルディア州知事、ミラノ市長に囲まれテープカットするマリア・ポッロ代表

若手デザイナー登竜門、サローネサテリテ25周年!

ミラノサローネがなぜ“巨大見本市”なのか、バイヤーなどの業界関係者の来場者数だけでも把握できるが、その理由はその内容の充実さにある。
見本市だけでも実は家具見本市、インテリア小物見本市、オフィス家具見本市、コントラクト見本市の4つの見本市が毎年開催され、更に偶数年にキッチンとバスルームの見本市、奇数年に照明の見本市が開催される。
そして、若手デザイナー登竜門として名高い、「サローネサテリテ」も同時開催される。なぜ世界中の若きデザイナーの誰もが出展したいと憧れるまでになったのか?
それは、すぐ隣で千数百社の世界トップブランドが出展しているので、その社長たちが自ら会期後半、ヘッドハンティングにくるからだ。無名のデザイナーたちは有名ブランドで自分の作品を発表することが夢だが、企業も常に若き才能を誰よりも先に発掘し世に出すことに躍起になっているため、ウィンウィンの関係だからだ。
1960 年代、ヴェネズエラから小さい息子を抱えてやってきてイタリア語を学び、C&B (B&Bの前身) のPRを長年務めていたマルヴァ・グリフィン氏、その後、サローネのPRとなり、「若き才能にチャンスの場を!」と1998年に創設したのが「サローネサテリテ(SaloneSatellite)」だった。
以来、マルヴァのキュレーションのもとミラノサローネの併催展示として毎年開催され、無名だった数多くのデザイナーを世へ送り出したことで、マルヴァは「デザインの母」と呼ばれるようになった。そのサローネサテリテが今年、25周年を迎え、トリエンナーレ・デザインミュージアムで大々的な記念展示、「UNIVERSO SATELLITE. 25 years of SaloneSatellite」が4月末まで開催され、創設当初から現在に至るまでの作品を一堂に会した。
そして、2010年から始まったサローネサテリテ・アワードの記念すべき第一回目優勝者は日本人デザイナー、田村奈穂氏。他のサテリテ出身デザイナー同様、彼女も瞬く間に有名になった。映画「PERFECT DAYS 」でもチラッと映った渋谷の赤い「THE TOKYO TOILET」も彼女の作品。伝統的な作法「おりがた」からインスピレーションを得た公衆トイレには、女性の視点ならではのデザインが詰まっている。
今では多くの有名ブランドから声がかかるようになり、今年はミラノサローネ代表マリア・ポッロ氏のポッロ社から発表した新作ベンチも正に「ORIGATA」。サローネサテリテ25周年展でも作品が展示され、ご本人を前にパチリ。明日の田村奈穂氏を目指して今年も多くの日本人若手デザイナーが出展したサローネサテリテ、この展示は今後もずっと目が離せない。

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© Saverio Lombardi Vallauri / Salone del Mobile.Milano (右上、左下、左上ポートレート)

Universo Satellite. 25 Years of SaloneSatellite
Triennale Milano/ Viale Alemagna, 6
*次回サローネサテリテ開催予定:2025年4月8日〜13日(会期中通して一般開放・入場無料)

見本市だけじゃない!文化イベントも面白いミラノサローネ

連日ジャーナリストや業界関係者でごった返すミラノサローネ会場。
手帳に目一杯詰まったアポに間に合うよう会場内を走り回る。何と言ってもその「会場」は、中央コンコースの長さだけでも1km を超え、1つが約17,000㎡あるパビリオンが20もあり、その間に点在する屋外の飲食店や芝生エリアを合わせると面積は40万㎡におよび、東京ディズニーシーが49万㎡なので、いかに巨大か想像つくだろう。
そんな会場で、ふっと一瞬息抜きに文化イベントへ立ち寄ることは、前夜祭のスカラ座同様、決して「無駄な時間」でなく、むしろ、一瞬仕事から離れることで能率が上がる、という科学的根拠に基づいて企画されている。今年は4つも大きなイベントが開催された。
隔年開催見本市にちなんで、バスルーム見本市では、海底を模した巨大なインスタレーションで水資源の足跡と価値を考察、キッチン見本市では、世界のフード雑誌がアーティストやシェフと組んで、食材の現在と未来について提議し、独創的なビジョンで披露し考察するパフォーマンスを披露。
すっかり恒例となった人気のトークイベントでは、今年も有名建築家などを招いて毎日、興味深い話を聞かせてくれた。そして、今年の目玉イベントだったのが、なんとハリウッドの映画監督、デヴィッド・リンチによるインテリアの「Thinking Room(考える部屋)」!
友人でありキュレーターのアントニオ・モンダ氏 (写真左上) がある日、デヴィッドリンチがデザインしたアームチェアを見て、「家具をデザインするのか?!」と驚いたことから、ミラノサローネが相談され、この企画が実現したのだ。
部屋の中央に備え付けられたアームチェアの素材はもちろん、床材、壁の柱の木材から壁紙、天井に張られたパイプの素材から色、デスクに立てられた色鉛筆に至るまで、全てサンプルをロサンジェルスへ送り、本人が選び、指示し制作したそうだ。壁に掘られたスペースの額縁のトップを飾るゴールドの王冠は唯一、デヴィッド・リンチ自らが作成し、ミラノへサンプルを送ってきたそうだ。
関係者は声を揃えて「映画のシーン作りは確かにプロだが、ここまでインテリアにプロとは!」と絶賛。額に飾られた生肉だったり、人だかりだったりの写真、なぜこれを?という問いには「ここは考える部屋だ」と、一切、問答無用だったそうだ。完成度の高い展示、どこかの財団の手に渡って更に多くの人に見てもらえることを祈っている。

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Interiors of David Lynch. A Thinking Room
https://www.salonemilano.it/en/articles/inside-david-lynchs-dream-rooms
https://www.salonemilano.it/en/articles/david-lynchs-dreamlike-rooms-salone-del-mobilemilano-2024
(*2本目の最後にはアントニオ・モンダ氏による興味深いデヴィッド・リンチのインタビュー映像付)

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