Milano Report
6月に入った途端、猛暑のミラノ。行き交う子どもたちの間で通知表が話題になっていたかと思ったのも束の間、子どもとママ族はどんどんミラノから消え、観光客が押し寄せ、それに合わせてオープンするカジュアルレストランも。もっぱら話題は夏のバカンスが中心なこの時期に、今年は世界中を震撼させている戦争についても語られる毎日。ヨーロッパに住んでいるとロシア人、ウクライナ人、イスラエル人、イラン人、パレスティナ人、、
全ての戦争の渦中の国の方たちと触れ合う機会もあれば、友人や知人、仕事仲間だったりもするので、とても身近に感じます。今回は少し、それらをテーマにしたミラノの話題にも触れながらレポートします。
ミラノ・スカラ座のロイヤルボックスでの観劇を初体験!
世界3大オペラハウスの1つ、ミラノ・スカラ座は、1778年に開場。サンタ・マリア・デッラ・スカラ教会の跡地に建設されたことに名前が由来する。383個の電球をあしらうボヘミアンガラスのシャンデリアが照らすミラノが誇る歌劇場は、2002年から2004年に3年かけて大々的な改修工事が行われた。舞台装置が近代化され、座席に字幕スクリーンが設置され、シートも新しく入れ替わった。この由緒あるミラノ・スカラ座では今シーズン最後のオペラ、「ノルマ」がスタートしたのだが、そのドレスリハーサルを、な、なんとロイヤルボックスで観劇する機会に恵まれた!
イタリア語でロイヤルボックスは「パルコ・レアーレ」と呼ばれ、12月の柿落としには大統領や首相などの要人が座る部屋だ。劇場の最も格式の高いパルコ・レアーレは、歴代の君主、国家元首、高官といった著名人を迎えてきた。当初は貴族の所有物であったパルコ・レアーレ(当初はパルコ・デッラ・コローナと呼ばれていた)は、後にイタリア王室に引き継がれ、イタリア統一の数年後、パルコ・レアーレを含む官舎は国から自治体へ移管され、何よりもまず自治体の権限に服することになった。今では劇場の経営陣が自由に使用できるようになったことで、今回、内部関係者の計らいによりドレスリハーサルを由緒あるお部屋から観劇する幸運に恵まれたのだ。新古典主義様式の内装で、壁には額縁入りの金メッキ鏡が飾られ、椅子は真紅のベルベットで覆われた木製で、カーテンはフリンジと金色の紐で飾られている。天井は漆喰で、壁は白と黄色のダマスクで覆われている。円形の天井は絵画と漆喰で装飾され、劇場の歴史の中で、その時代様式に従って修復や新しい装飾が施されてきた。そんな歴史の変遷に思いを馳せながら、舞台を真正面から感慨深く観劇した夜だった。
スカラ座で起きた事件、そして・・・
いま、ミラノ・スカラ座でオペラの観劇に行くと、開演前に突如、 “STOP THE WAR”と投影されドキッとする。英語の前にはイタリア語で、CESSARE IL FUOCO (同じ意)、そして最後の3枚目が右側の写真にあるように、ジュゼッペ・ヴェルディのオペラ、「シモン・ボッカネグラ」の感動的なアリアの一部 “E vo gridando: pace! E vo gridando: amor!” 、「私は叫びたい、平和を!私は叫びたい、愛を!」という胸に刺さるメッセージだ。しかも、開幕後のステージでは戦時中に爆撃されたミラノ・スカラ座の写真も登場。これの所以はまだ不明だが、メッセージを前回のオペラから開演前に投影することになった経緯には、ある事件が深く関わっている。来る5月4日、開演前に先ほど紹介したロイヤルボックス(パルコ・レアーレ)へ、ジョルジャ・メローニ首相が入ろうとしたその瞬間、なんと、スカラ座会場内の案内役、「マスケラ」と呼ばれる女性職員の一人が、手に持っていた横断幕を広げようとしながら、”Palestina libera! (パレスティナを解放せよ!)” と叫んだのだ。ガザ地区で起きているジェノサイドに対し、彼女は、たくさんの若者たちの声を代弁したのだった。いったんは懲戒処分を受けるに留まったものの、結局は解雇されてしまった。長引くパレスティナの戦争を受け、観客席から反戦を訴える垂れ幕が出される、ということがたびたび起きていたのだが、その後、解雇された彼女を支持するフラッシュモブが400件以上行われ、事件はかなり社会問題となった。そういった背景から、スカラ座自体がオフィシャルに反戦のメッセージを出す、という異例の事態となったのだ。そして、6月25日には夕方18:30から40分ほど、スカラ座広場にて、LA MUSICA CONTRO IL SILENZIO (沈黙に抗う音楽)という、 音楽家たちによるパレスティナ解放運動の一環の音楽会が開催された。事前に配られていたビラに印刷されたQRには当日のプログラムの楽譜が収められ、音楽家は誰でも自由に参加できるという企画。実際には大半がスカラ座の奏者が、20時から始まる舞台の前に、炎天下、汗だくで演奏し、コーラスも多く参加、最後のモーツァルトの “Lacrimosa (ラクリモーサ)” で涙が出た。音楽に国境はない。だからこそストレートに心に刺さる。終了後、パレスティナ人の方が「とても感動した、本当にありがとう」と挨拶された。たくさんの声が戦場に届くことを祈ってやまない。
LA MUSICA CONTRO IL SILENZIO
パレスチナにおけるアパルトヘイトとジェノサイドに反対する活動
Fackbook | Instagram
柳幸典の壮大なインスタレーション、「イカルス」が話題に!
福岡出身の現代美術家、柳幸典(やなぎ ゆきのり)氏のヨーロッパにおける初の大回顧展、「ICARUS」が、ピレリ・ハンガービコッカで2025年3月27日から7月27日まで開催されていて話題になっている。イタリアでは1993年にヴェネツィアで開催されたアート・ビエンナーレに招待されて依頼、32年ぶりの国際展となり、今回は、柳氏の過去の代表作に加え、新作も展示され、彼の作品が時代と社会に対する深い洞察をどのように提供してきたかを顕彰する貴重な機会となった迫力ある大型インスタレーションだ。6月14日には、氏と深い関係のある森美術館の片岡真実館長が招かれ、会場でイタリア語の同時通訳をヘッドフォンで聞きながら解説いただける貴重な会に参加した。会場に入ってまず目にするのは福島の原発事故後の津波による被害でもたらされた瓦礫の山。その上に乗ったゴジラの大きな「目」が原爆投下を映し出しながら、その爆音が会場に響き渡る。瓦礫の上には、国家が抗戦権を放棄し賛否両論となった憲法9条のネオンが光り、歴史を振り返りながら未来を考える展示となっている。人間のアイデンティティや国家、戦争の記憶などをテーマにしたインスタレーション作品を制作する彼の作品は、今回も展示されている砂でできた世界各国の国旗を蟻が崩していく「ユーラシア」や、プラスチック製のウルトラマンの人形を並べた「バンザイ・コーナー」などが有名。そして今回のテーマは、技術によって羽を得たことで太陽に近づきすぎて墜落する「イカルス」で、テクノロジーへの過信と戒めなのだ。瓦礫の次には、原爆の実物大が薄暗い会場の、30メートルもある天井から吊るされ、ゾッとする。下には、近代主義は一直線に見えて彷徨ってしまうことを、コンテナを繋ぎ合わせた「迷路」で表現。暗い内部の繋ぎ目に鏡が貼られ、そこには三島由紀夫の言葉がイタリア語で書かれている。5,500㎡の広大な会場に展示されている柳氏が幼少期に自身が幼少期に怖かったゴジラや、スーパーヒーローのウルトラマンに続き、プラモデル展示は、マーシャル諸島のビキニ環礁、水深50mに眠る「長門」。終戦後、核実験のために米軍に接収された戦艦だ。巨大化することで実物の戦艦との境を曖昧にしている。同時に、柳氏がいう、2つの原爆と1つの原発事故、そして4つ目の被曝と語る遠洋漁業船の被曝と流通した魚による被曝も表し、日本人と核との関係性を世界へ発信し経験を共有したい、という気持ちが込められている。「大きな会場でぜひ展示したい!」という柳氏たっての希望が叶った、と語られた片岡真実館長、ミラノのピレリ・ハンガービコッカだからこそ伝わる、それぞれの作品に込められたメッセージが、終戦80周年を迎える今年、イタリア人の心に響いている。
ICARUS
住所:Via Chiese 2, 20126 Milano
開館時間:10.30 – 20.30 (閉館日:月・火・水曜日) 2025.7.27 まで開催
超人気ユーチューバーシェフ、マックス・マリオーラのオステリアがオープン!
ソーシャルネットワークで1000万人以上のフォロワーを持つローマの人気シェフ、マックス・マリオーラが、6月19日、ミラノのドゥオーモの下に母に捧げるオステリア、「オステリア・ダ・フィオレッラ」をオープン。昨年1月にミラノ初のレストラン、「マックス・マリオーラ・レストラン」がオープンしたのを機に、マックスはローマからミラノへ移住、その2ヶ月後にはビストロもオープンし、今回ミラノで3軒目となる彼の店舗は、いちばんカジュアルな店だ。このオステリアは、彼の料理に対する想像力の中心的存在である母親、フィオレッラさんにちなんで名付けられた(写真下、右から2番目)。複雑なことを考えずに、心を込めて料理することを教えてくれたフィオレッラさんのお陰で、彼は、いつもシンプルかつ美味しいものを食べて育った。この味を再発見してもらい、真のローマの家庭の味を味わってもらうために彼はミラノへ進出したのだ。昨年、バッタリ、市内で会った際にそう語っていた(写真、右)。オステリアでは、ローマの伝統に則った本物のレシピを、洗練されることなくシンプルな方法で提供している。メニューは、ナポリの「オステリア・ダ・フィオレッラ」1号店と同じ伝統的なローマ料理で、彼が育った家庭と同じように調理され、前菜には、アーティチョーク・アッラ・ジューディア(写真下の左から2番目)、トリッパのフライ のミントとペコリーノチーズ添え、ビーフミートボール カチョ・エ・ペペ・フォンデュ添えなどがある。マックスが得意とするカルボナーラ(写真下、右から3番目)は、レストランではテーブルで仕上げられサーブされるが、オステリアでは厨房で和えられてから出てくるのでお値段が半分以下だが、味はマックスの味だ。ローマ名物のカーチョ・エ・ペーペ(写真上、右から3番目)もおすすめ。メインディッシュは、彼が愛するフェッティーナ・パナータなど。サイドディッシュには、自家製フライドポテト、インゲン豆のサラダなど。デザートのオリジナルティラミス、「ティラマックス」は、ローマの老舗焼き菓子店のビスケット、ジェンティリーニを使用。もちろん、マックスが子どもの頃から大好物なおやつ、マリトッツォ3種(生クリーム、リコッタとチョコレート、リコッタとコーヒーとサンブーカ)も用意。気になる価格だが、物価高が著しいミラノでも、店内の設備費を削って、コスパを高めた良心的な価格だ。前菜は9ユーロから、プリモは14〜18ユーロ、セコンドは13〜18ユーロ。サイドディッシュは6ユーロ、デザートは7~8ユーロといった具合に、ミラノの中心地ではあり得ない価格が自慢。YouTubeでの料理配信は減らしたものの時々配信しつつ、愛好家やプロ向けのオンライン料理コースのプラットフォームも立ち上げ、食材の選び方からレシピに至るまで、さまざまなレベルの料理のテクニックを伝授している。肉については、飼育から切り方まで、かなり本格的なよう。「オステリア・ダ・フィオレッラ」は既にナポリに1店舗、ミラノの次はトリノにオープン予定。邁進を続けるマックスの次なるプロジェクトに期待が高まっている。
OSTERIA DA FIORELLA by MAX MARIOLA
Instagram
住所:Largo Corsia dei Servi,11,20122 Milano
営業時間:12:00 – 15:00,19:00 – 23:00 (無休)
電話:02 781869