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Report

Milano Report

寒くもなく暑くもない新緑の季節。ミラノのあちこちにジャスミンが咲き乱れ、良い香りが街を包んでいます。今年も開催された恒例のピアノシティーではダルセナ(運河の奥、以前は船舶を保管・修理していた場所)にグランドピアノを乗せたボートを浮かべ朝5時、日の出に合わせて演奏、というロマンティックな仕掛けも。そして水の都といえば、ヴェネチア。2年に1度開催される建築展が始まり、暑くなる前に行ってきたので、今回はヴェネチア特集をご紹介します!

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*ピアニストご本人のインスタグラムストーリーより

ビエンナーレ・建築展2025

万博のミニチュア版、と呼べるような会場は、1895年に設立して以来、万博のように会期後取り壊すのでなく、各国のパビリオンが修復されながらずっと同じ場所で使い続けられているジャルディーニ会場と、そこから徒歩10分のアルセナーレ会場(かつて世界最大規模の造船所と武器工場の複合施設跡地)に分かれ、アルセナーレではジャルディーニにパビリオンを持たない国の合同展示となっている。「ビエンナーレ」とは隔年の意味。ヴェネツィアでは偶数年にアート展、奇数年の今年は建築展が開催される。ヴェネツィは列車を降りて外へ出て運河を見た瞬間から何度来ても興奮する魅力ある街で、会場は駅から一番遠い島の先端に位置する。 第19回の今年は建築家、カルロ・ラッティによるキュレーションで、テーマは「インテリジェンス。自然。人工。共同」、 地球の自然な次元である大地と、人間が作り出した人工的な次元である世界との関係を探求する。簡単にいうと、AIや人工の力を借りたサステナブルな建築によって人間が自然に寄り添う未来の模索、といったところだろうか。
例えばスペイン館。「自然は廃棄物を生み出さない。あらゆる物質は流れの中に内在化される。建築も同じ論理に則ったらどうか?」という視点から、カルロ・ラッティの「気候危機に対する場所と解決策」をコンセプトに、脱炭素化に貢献する「材料」「エネルギー」「労働」「廃棄物」「排出」を探求している。
また、その隣のベルギー館では、自然、テクノロジー、建築の関係に挑戦するラディカルな実験を提供。会場の真ん中にふんだんに植えられた植物のアトリウムが、清潔で涼しい空気を建物全体に効率的に循環させることを実証し、植物の知性が建築環境をどのように形づくるかを体感、パネルでは実際に導入された建築物の例が詳細に紹介され、「こんな建物に住みたい!」と思わせてくれる。
スイス館はちょっと違うアプローチで、1952年にブルーノ・ジャコメッティによってデザインされたパヴィリオンを、「もし、彼の代わりに女性建築家、リスベット・ザックスがスイス館を設計していたら...」という発想から、1955年にスイスで開催されたスイス女性作品展の仮説パヴィリオンを再現!異なる建築遺産を結びつけ、来館者の知覚を刺激するユニークな試み。ふわっとした白いカーテンや優しいライトグレー、女性らしさが反映される空間は実に居心地よい。
セルビア館では、天井から吊るされたシンプルで美しいニットのインスタレーションが、建築家、ニットデザイナー、電気技師のチームによって、手作業と機械で空間形状を作成、展示品は太陽エネルギーを利用して展開され、会期終了後は125の毛糸玉となって元の素材に戻る、という一切無駄がない秀逸な展示だった。

さて、アルセナーレも興味深い展示が多かったが、あえて1つだけ紹介する。それはイスラエルの展示だ。時に言葉は、人の心に刺さり、揺さぶる。 繊細な麻の布の美しさとは裏腹に、そこに印刷された言葉たちにドキッとした。タイトルは、“THE LAND REMEMBERS (土地は記憶している)”。シンプルでいて全てを物語る。「爆弾による破壊、戦車に押しつぶされた土地、粉々になったコンクリート、瓦礫と化した建物、爆発によって拡散した有害な重金属や化学物質を忘れることはできない。オリーブの実がたわわに実る果樹園が、白リンの有毒な煙と炎で焦土と化したとしても。大地は傷つきながらも生き延び、再生を夢見て、回復への道筋を思い出している・・・」。建築展にあえて出展した展示に “BEFORE ARCHITECTURE, THERE IS LAND(建築の前に土地)”、と掲げた。最もだ。丁寧に手刺繍が施された美しい花々に心が痛む。「レバノンは小さな国土でありながら、並外れた生物多様性と高い絶滅危惧種を誇り、1377種がレバノンや地中海諸国の特有の種であり、これを保全することはレバノンのアイデンティティを守ること。戦争は、社会、経済、景観に爪痕を残し、政治的な言説や復興に影響を与えるが、紛争の完全な帰結であるレバノンの生態系の荒廃は、気づかれないことが多い」。誰が勝つ、負ける、でなく、1日も早く世の中から紛争がなくなり、都会のオアシスを求める前に、まずは自然を誇る土地に自然を還すことから始めて欲しいと感じた展示だった。

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左から:ベルギー館、スペイン館、スイス館、その下はセルビア館、ジャスミンが咲き誇るビエンナーレ案内、その下はアルセナーレ入り口展示、右4枚はレバノン。

Biennale Architettura 2025オフィシャルサイト
場所:Viale Trieste, 30122 Venezia
期間:2025.5.10 – 11.23

ヴェネツィアおすすめ宿と渡し船

ヴェネツィアの宿はとにかく高い割にはいいホテルがないことで有名だ。高級ホテルなら別かも知れないが、1泊100ユーロ代でも運河の悪臭やアリの大量発生など、コメントを読むだけで気が引けるので、本島の手前の街、メストレに宿泊することが多い。そんな中、偶然見つけたこのブティックホテル・グリフォーニはお勧めだ。この日、Booking.com では1泊2人で115ユーロが最安値だった。とにかく綺麗なのが嬉しく、運河に面していないので悪臭もない。Wi-Fi、冷蔵庫、ドライヤー、アイロン、カフェマシン、金庫完備、水、コーヒー、ビスケット、スナック、そしてスリッパもある。9部屋しかなく、オーナーのおばさんが一人で運営から掃除をしている。エレベーターはないので荷物が多い場合は地上階のRoom 1 (写真の部屋)がお勧め(大きめな部屋なのでこの日の価格は153ユーロ)。チェックイン前後の荷物預けも可能だ。建物の扉も部屋のドアも、そして荷物預かり部屋も、全て暗証番号で対応しており無人だからこその価格だろう。
ところでグーグルマップを頼りに歩いていると、橋がない運河にぶち当たることが多い。そこには必ず「TRAGHETTO(トラゲット)」と書かれた渡し船があり、通常、ゴンドラ乗り場と並んでいることも多く、トラゲットの船もゴンドラと同じ作り。乗り合いで運河を渡るだけなので、2ユーロでゴンドラの気分を味わえてお勧めだ。ただ、小銭の用意が必須なのと、19時以降は運行していないことが多く要注意だ。

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Grifoni Boutique Hotel
オフィシャルサイトはなく、Booking.comなどで予約
住所:Sestiere San Polo 2606, 30125 Venezia
チェックイン 15:00、チェックアウト 10:00

ユニークなレストラン、ボ・オステリア4

ビエンナーレのジャルディーニからアルセナーレへ移動する途中、ランチをするのに最適なのが、レストランやカフェが密集するガリバルディ通り。そこにグーグルマップで高評価だった「ボ・オステリア4 」へ入ってみた。レンガ作りの落ち着いた内装で店員も感じよく、グラスワインにおすすめのパスタとタコのグリルを注文。ボンゴレは本日入荷したばかりの貝の殻をちょうど取り除いたところ、というのでボンゴレパスタ。海のアスパラ、と呼ばれる海に近い陸で育つサリコルニア(アッケシソウ)と絡め、レモンソースで和えたさっぱりとしたパスタはとても美味。セコンドはとてもユニークで、タコの下に美しいグリーンのグラデーションを描くソースは、ズッキーニを皮と中身を別々に茹でてソースにしたという。そこに自家製乾燥タジャスカ・オリーブを刻んだものと、冷凍ラズベリーを砕いたものを乗せ、メレンゲで仕上げたほんのり甘みも加わった珍しい一品。完成までに4時間半を要したそう!聞くとシェフは25歳で、伝統料理にひと工夫を加えた料理を試行錯誤しながら生み出しているらしく、ならば、デザートもいちばん面白いものを、と注文したら、バジリコのパンナコッタが出てきた。なるほど、バジルたっぷりの珍味。上にはトマトジャムかバルサミコ酢のジャムが合うのでは?と聞くと、当初はトマトジャムだったそうだが、それではあまりにもパスタやピッツァを連想させてしまう!という声が多く、苺ジャムで落ち着いたそう。きっとまた面白いメニューに出会えそうで、次回も立ち寄ってみたいと思わせる店だ。

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Bò osteria 4
住所:Via Giuseppe Garibaldi, 1788, 30122 Venezia
営業時間:12:00 – 15:00, 18:00 – 23:00 (定休日:月曜日)

サン・マルコ広場の歴史的建造物に穴場ギャラリーカフェを発見!

ヴェネツィアといえばサン・マルコ広場が中心で、広場に面したカフェ・レストランのテーブルは観光客で連日賑わっている。どこも人、人、人でごった返す中、広場を見下ろす静かな穴場カフェを見つけた!「プロクラティエ・ヴェッキエ」、旧行政館の建物だ。ビエンナーレ開催中はフオーリ・ビエンナーレと言って、会場外でも街中で様々な展示が開催されており、その中でハリー・サイドラーという建築家の展示を見に行った際、同じ建物の3階も開放されていると聞き、2階の有料展示スペースから上がってはじめてカフェがあることに気づいた。そう、表には一切、カフェの案内がないのだ。1832年からここに本部を構えるイタリア最大の保険会社ジェネラーリが長い年月をかけ取得した旧行政館を、ミラノにもスタジオを構えるイギリス人著名建築家、デイヴィッド・チッパーフィールドが修復を手がけ、ヴェネツィアの旧行政館を5年かけてリニューアルし、2022年夏のオープンで、500年ぶりに一般公開となった。3階は無料展示スペース、コワーキングスペース、充電コンセント完備のイリーカフェ、230席を備えた講堂「ザ・ホール」で構成されている。受付で「3階の展示を見たい」、といえば無料チケットを発券してくれる。かつてヴェネツィア共和国の高官、サン・マルコ財務官の事務所と住居であった建築と歴史を尊重するだけでなく、改装時に創設されたジェネラーリの慈善財団「ヒューマン・セーフティー・ネット」のアイデンティティとの対話に取り組み、参加型空間を実現した。ガラスやオーク材といった地元の素材を使用し、ヴェネツィアの職人と協力し、訪れた人が、また訪れたいと思える空間、そして建築を邪魔しない軽やかな空間を演出した。「中世とローマ帝国、ルネサンスと中世、バロックとルネサンス。イタリアでは何世紀にもわたってあらゆるものが混ざり合ってきたが、戦後、質の高い現代建築の介入は建築遺産保護に対する冒涜とみなされ、プロセスが停止した。だが、それは間違いで、介入が適切に行われることで、歴史的中心部であっても古代美術を現代美術に移植することができる。まさしくこの旧行政館の復旧・修復プロジェクトがその例だ」、とイタリア元文化大臣も述べたように、イタリアの歴史の変遷を垣間見れる希少な建物は、サン・マルコ広場を見下ろしながらカフェや軽食を楽しみつつ、ヴェネツィアの歴史に想いを馳せるのに最高の場所だろう。

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PROCURATIE Vecchie Venice
住所:P.za San Marco, 105, 20124 Venezia
営業時間:10:00 – 19:00 (定休日:火曜日)

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